Similarwebが提供するビジネス向けウェブサイト分析サービスによると、2023年5月のデータでは、ChatGPT開発元のOpenAIは、 現在世界で17番目に人気のあるウェブサイトとして確認されています。これは、同時期のNetflixやLinkedInよりも多くの訪問数を 記録しており、この驚くべき成果をさらに素晴らしいものにするのは、コピー＆ペーストのみが可能な最も基本的なUIのみを ベースにしていること、そして他の競合サイトとは異なり、モバイルウェブの欠如にもかかわらず達成された成果であるという点です。

そして、5月18日には関連するモバイルアプリがアメリカのApple App Storeでリリースされました。

この新しいモバイルアプリのリリースに関して注目すべき点は、音声テキスト変換モデルであるWhisperが搭載されている ことです。言い換えれば、生成AIへの接続がモニターの前という物理的な制約から解放され、テキストに続いて音声まで 拡大されたデータ形式は、今後写真や動画などのビジュアルデータ認識が追加されれば、既存のモバイルやウェアラブル デバイスを通じて、いつでもどこでも生成AIとの意見交換が可能となり、私たちの日常生活に直接入り込んでくる ことになるでしょう。

そのため、これまでの生成AIの回答の適切性の評価、人間の存在と対立する存在としての危険性についての多くの懸念 や議論よりも、今後はこれらの新しいパートナーとどのように共存していくかに関心を向ける必要が高まっています。 特に仕事面では、すでに公共機関では従業員向けのChatGPT使用説明書の配布が進められており、企業内では特定の部門 からAIを業務に適用する案の提出を求められるなど、少々途方もない要求を受け始めています。

しかし、このような機関や企業の反応は、1960年代から続いてきたビジネスの定説である3本の脚の椅子(3-legged stool)の観点に基づいていることを忘れてはなりません。これまで、組織の変化は、人(People)、プロセス(Processes)、 ツールまたは技術(Tools or Technology)という3つの要素の調和によって実現されると考えられており、 1本の脚が変化すれば、他の脚を調整することで椅子のバランスを保つという方法が一般的でした。しかし、人 とAIツールとの相互作用を通じて、毎日新しい可能性が生まれている現状においても、それらを分離して考えることが 本当に合理的なのでしょうか？

これに対して、新たな視点をもたらすのが「行為者-ネットワーク理論」です。(Actor-Network Theory) ANTは、 1980年代初頭にブルーノ・ラトゥールらによって開発された、社会および技術システムを研究するアプローチを説明する 理論です。私たちは、人間のみを主体性を有する行為者として、物体などの非人間的な存在は目的達成のために利用する 受動的な存在であると考えがちですが、この視点では、他の存在に影響を与えるすべてのものを行為者としての地位 を与えることができます。つまり、少なくとも出発点においては、「物」を人間と同じ位置で考慮することを意味します。

ANTを生成AIとの協業による将来の業務環境に適用すると、組織は「人間と非人間的な行為者で構成されたネットワーク」 と考えることができます。人間の行為者は、組織の目標達成のために協力する従業員であり、オフィス、コンピューター、 コーヒーメーカーなどの非人間的な行為者がなければ、すべては不可能です。ChatGPTを使ったことがある人は、 チャットを通じて教育し、チャットから学び、生成されるアイデアを確認することで、このような相互影響力を認識できる でしょう。2023年3月に発表された、444人の事務職従業員を対象としたChatGPTとの作業経験に関するMITの研究では、 このツールが作業初期のブレインストーミング時間を短縮し、草案作成を迅速化し、最終編集段階でより集中して使用 することで、全体的な業務効率が大幅に向上したという結果が示されました。

今後は、組織や部門のリーダーには、より実験的な視点と態度が求められる現実となるでしょう。

これに対応するためには、業務プロセスの見直し頻度を短縮することを検討する必要があるでしょう。すでにマーケティング、 広報、翻訳などの業務現場ではAIが変化をもたらしていますが、組織は依然としてそれを従業員個人の使用の可否に のみ焦点を当てています。これを部門全体の変化と捉え、全体的な進捗の再調整を検討することで、管理統合および 成果分析の面でより優れた業務効率性を確認することができます。

また、生成AIを活用した業務の主体は、共に成長する2つの主体の結合、つまりハイブリッドであることを認識 し、認める必要があります。これは、継続的にアップグレードされるChatGPTの機能を従業員がどのように活用するか を決定する上で役立ち、OpenAIや政府およびAI関連機関による使用規制や管理に迅速に対応することを可能にする でしょう。

生成AIの革新がどこにつながるのか予測することは難しいように思えます。しかし、ダイナミックなネットワークと ハイブリッドな行為者の視点で考える企業やチームは、この絶え間ない変化の流れの中で、有利な立場を維持し続ける ための機会を掴むことができるでしょう。

* この記事は、2023年5月22日発行の電子新聞の署名コラムに掲載された記事の原文です。

References

Similarweb.com about Open ai

Introducing the ChatGPT app for iOS

The way we work is about to change

Experimental Evidence on the Productivity Effects of Generative Artificial Intelligence

Actor–network theory⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠